開催日: | 1998年10月2日 |
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会 場: | 国立感染症研究所 |
テーマ: | 乳酸菌バイオ研究の到達点と今後の応用 |
概 要: | ■セミナー報告 昨年(※1998年)10月2日、国立感染症研究所(新宿区戸山)第2会議室において特別セミナーが開催された。演者のDr. Jan Kokは、ご承知の通り乳酸菌の研究、特に遺伝学研究を精力的に進めてきた世界的に有名な研究者の一人、今年43歳になる中堅研究者である。文部省学術振興会の招きで、本会会長の北海道大学農学部冨田房男教授の研究室に短期滞在したが、過密なスケジュールの中、本学会のために講演してくれた。 当日は「乳酸菌バイオ研究の到達点と今後の応用」という演題で、主にチーズ製造に用いられるLactococcus lactisのプロテアーゼ、ペプチダーゼ、およびペプチド取り込み系についての遺伝学的、生化学的研究の最新結果を紹介してくれた。すなわち、乳酸菌が如何に蛋白質を分解し利用するかについて基礎的な知見を示し、さらにその応用として、例えば苦味ペプチド生成の制御が可能となり発酵乳製品の香味の改良や、乳酸菌で特定の生理活性ペプチドを効率よく生産させるcell factory技術への発展の可能性も示した。Dr. Jan Kokは、彼らが見つけた食塩で誘導されるプロモーターを用いてチーズの熟成促進をはかる研究も紹介した。もちろんまだ研究段階の成果ではあるが、自己溶解酵素遺伝子をこのプロモーターに結合して乳酸菌で発酵を行い、食塩を添加するとプロモーターが活性化されて発現した本酵素で乳酸菌が溶解し、細胞内のペプチダーゼなどの酵素が外に出てチーズの熟成が早くなるというものである。さらに、Lactococcus lactisの自己溶解酵素のC-末端部分が本菌をはじめとするグラム陽性細菌の細胞表層に結合することを見い出し現在その基礎および応用研究を行っているとのことであり、今後の発表が待たれる。また質疑応答の際に、欧州連合による現行の乳酸菌研究プロジェクト”The Star LAB Project”の概要も紹介されたが、これについては本号(Vol. 9, No. 2)に紹介記事があるので是非参照して頂きたい。 参加者は約20名でそれほど多くはなかったが、Dr. Jan Kokの優れた講演のせいか、会場からは熱心な質問が続出し閉会予定時刻4時半を過ぎても討論が続き、結局5時過ぎに議論の場を懇親会(早稲田駅近くの居酒屋)に移した。セミナー出席者のほとんどの方に来て頂いたが、参加者は気軽にDr. Jan Kokと討論を続けたり交流を深めたりして懇親会も大盛況であった。 報告者: 佐々木隆 (明治乳業株式会社 中央研究所) 五十君 静信 (国立感染症研究所 食品衛生微生物部) |